日本ではITエンジニアの不足が深刻化しており、企業におけるエンジニアのリソース確保が非常に難しくなっています。近年注目されるリソース不足の解決策として、「オフショア開発」が候補に挙がっており、利用する企業が増えています。当記事ではエンジニアのリソース不足における課題の概要を述べたうえで、有効な解決策のひとつであるオフショア開発を進める方法について解説します。
目次
エンジニアのリソース不足の課題
日本ではITエンジニアが大幅に不足しており、経済産業省の調査によれば、2030年には最大79万人のIT人材が不足すると予測されています。
またITエンジニアのリソース不足は国の経済成長やデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進に深刻な影響を及ぼす可能性があり、実際に総務省が行った調査によれば、DXを進める際の課題として挙げられた回答で最も多かったのは「人材不足」でした。
図表1-2-4-22 デジタル・トランスフォーメーションを進める際の課題
エンジニア不足の背景には、急速なデジタル化やAI技術の進展に伴う需要の増加、少子高齢化、そしてIT業界に対するネガティブなイメージが影響していると考えられます。
昨今では特に、IoTやビッグデータなどの先端技術に対応できるエンジニアが求められており、これらの分野では特に人材が不足しています。
またIT人材不足は企業の情報セキュリティリスクを高め、システム開発の遅延や既存のIT人材への負担増加を招きます。すると企業の競争力が低下し、日本全体の経済成長にも悪影響をおよぼす可能性が考えられます。
問題を解決するために、国は社内教育体制の強化や柔軟な働き方の導入、外国籍人材の積極的な採用を推進しています。
リソース不足の解消方法
企業がITエンジニアの不足を解決するには、以下のような多角的なアプローチが考えられます。
- ITエンジニアの育成
- フリーランスや海外人材の登用
- オフショア開発の導入
自社のリソースのみで解決する場合は、IT人材の育成が重要です。
既存の社員に対してスキルアップのための研修や教育プログラムを提供し、技術力を向上させます。成功すれば新たなエンジニアを採用するコストを削減しつつ、社内での人材活用を促進できます。
次に、フリーランスや海外人材を活用する方法があります。
特に特定のプロジェクトや短期間の業務においては、フリーランスを活用したほうがコスト削減にも有効であり即戦力となる人材を確保できるでしょう。
最後にオフショア開発の導入も検討してみてください。
海外企業には優秀なエンジニアがそろっているため、ソフトウェア開発やサービスの運用保守コストをおさえつつ委託できるのがメリットです。そしてオフショア開発の成功実績が増えれば、海外の市場や対応業務などが拡大でき、企業にとって大きな変革が期待できるでしょう。
クオリティ・コストのバランスがよい「オフショア開発」
オフショア開発とは、システム開発やITサービスの保守業務を日本ではなく海外の企業へ委託することを指します。主にコスト削減や高度な技術を求めて行われ、昨今では特にベトナムやフィリピンなどのアジア諸国が人気の委託先となっています。
オフショア開発の主な利点は、コスト削減に加えて人材確保ができる点にあります。特にベトナムやフィリピンなどの国々では、優秀なエンジニアを日本国内よりも低コストで雇用できるため、限られた予算内でより多くのプロジェクトが進められます。
しかしオフショア開発にはいくつかの課題もあり、文化や言語の違いからコミュニケーションが難しくなることや、品質管理と進捗管理の難しさが挙げられます。特に日本語特有のニュアンスが伝わらず、意図しない成果物が生まれるリスクがあります。このため、明確な指示や頻繁なコミュニケーションが求められるでしょう。
「オフショア開発」成功のための戦略的ステップ
オフショア開発は、明確な指示や頻繁なコミュニケーションが要となります。成功のための戦略的ステップを8つに分けて解説します。
Step1:プロジェクトの目的と要件の明確化
はじめに、プロジェクトの目的を具体的に定義します。定義すれば、関与する全てのメンバーが共通の目標を持てるでしょう。たとえば、コスト削減、新技術の活用、特定市場への展開など、目的を詳細に言語化して自社およびオフショア開発の委託先へ共有することが重要です。
次に要件定義を行います。要件定義とは、開発で必要となる機能や性能、セキュリティ要件を洗い出し、実装内容を決めるプロセスです。機能要件(システムが持つべき機能)や非機能要件(性能やセキュリティなど)を明確にして文書化します。この段階で、関係者全員が同じ理解を持つことが重要です。
Step2:適切なオフショアパートナーの選定
オフショア開発における委託先を選定するには、下記の基準から考慮するとよいでしょう。
- 言語能力
- 技術力
- 文化的な相性
- コスト
まず、言語能力は非常に重要です。日本企業が委託先を選ぶ場合、日本語でのコミュニケーションが可能な企業や、日本語を学んだエンジニアが在籍していることを優先させるべきです。言語の壁がある場合、誤解やミスが生じやすくプロジェクトの進行に支障をきたす可能性があります。
さらに委託先の企業が持つ技術力や専門知識は、プロジェクトの品質に直接影響します。特定の技術やプラットフォームに強みを持つ企業を選べば、自社のニーズに合った高品質な成果物が得られるでしょう。また過去のプロジェクト実績や顧客からのフィードバックを確認することも有効です。
さらに文化的相性も考慮すべきポイントです。異なる文化を持つチームとの協働は、ときには摩擦を生むことがあります。日本企業と比較的相性の良い国(例えば、ベトナムやフィリピンなど)を選べば、スムーズなコミュニケーションと協力関係が築けます。
最後に、コストも考慮する必要があります。オフショア開発の主な目的はコスト削減であるため、できるだけコストが下げられる国や企業を選ぶべきです。ただし単にコストだけでなく、提供されるサービスの質とのバランスを考える必要があります。安価なサービスが必ずしもよいとは限らないため、総合的なコストパフォーマンスを評価することが望ましいでしょう。
かならず複数の企業から見積もりを作成してもらい、慎重に比較検討すべきです。
Step3:コミュニケーションプランの確立
オフショア開発を導入するなら、下記においてあらかじめ効果的なコミュニケーションプランを確立させておくとよいでしょう。
- 使用するツール
- コミュニケーションの頻度と時間
- 担当者および参加者
使用するツールは、SlackやMicrosoft Teamsなどのテキストベースのツールや、ZoomやSkypeなどのビデオ通話ツールがあります。またプロジェクト管理ツール(例:JiraやTrello)を使用してタスクの進捗を可視化し、管理することも効果的です。
さらに、国によっては時差もかかわってきます。異なる地域で働くチームメンバーとのミーティングは、互いに合意した時間帯で行うことが重要で、できるだけメンバー全員が参加しやすく情報共有がスムーズにいくよう工夫すべきです。
Step4:品質管理と監視
オフショア開発で品質と監視を行うには、明確な要件定義が不可欠です。プロジェクトの目的や期待される成果を正確に文書化し、開発チームに具体的な指示を提供することで、誤解が防げます。
そして定期的なミーティングを行いプロジェクトの進捗状況を確認すれば、問題を早期に特定して適切な対策が講じられるでしょう。またSlackやJiraなどのツールを使用してチーム間のコミュニケーションを円滑にし、プロジェクトの進捗を追跡することも不可欠です。
さらに、品質管理体制の強化も大切な要素です。
発注者側が指示出しだけでなく、開発プロセス全体に関与し、進捗や品質について定期的に確認しましょう。また受注側と発注側の橋渡し役となる、日本人または日本語が話せるブリッジエンジニアの配置も効果的です。
ブリッジエンジニアは、日本側とオフショア開発側とのコミュニケーションを円滑にし、文化や言語の違いによる認識のズレを解消する役割を果たしてくれるでしょう。
Step5:文化背景の理解と働き方の調整
オフショア開発で取引先とのコミュニケーションを円滑にするには、文化的な違いを理解し尊重することが不可欠です。
異なる文化背景を持つチームメンバーとのコミュニケーションでは、それぞれの国の習慣や価値観を理解し、それらに基づいてアプローチを調整する必要があります。たとえば、国によっては日本のように間接的な表現が好まれる一方で、西洋のように直接的なフィードバックが重視されるなど、違いを認識しておくことが重要です。
さらに、柔軟な働き方の導入も考慮すべきです。
時差や文化的背景を考慮し、プロジェクトスケジュールや納期を余裕をもって設定することが求められます。リモートワーク環境を整え、自社のチームメンバーが自分のペースで効率よく作業できるように配慮するとよいでしょう。
Step6:法的合意と契約
プロジェクトを進めるにあたり、契約の取り決めを行う際は法的合意が必要です。
契約で注意すべき点は、契約に適用される法律を明確にすることであり、不明なままではトラブルが発生した際に解決が難しくなります。特に日本と海外の法律は異なるため、事前に確認しておく必要があるでしょう。
そして契約書の作成は必須です。
契約書には、納期、報酬、作業範囲、成果物、支払い条件などの主要項目を明記し、曖昧な表現を避けることで、後々のトラブル防止につながります。
また知的財産権の取り扱いについても注意が必要です。
オフショア開発によって生成されたコードや設計文書などの知的財産権は、契約書で明確に定義しておく必要があるでしょう。所有権やライセンス使用に関する条件を詳細に定めることも含まれます。
そして雇用制度の違いにも注意が必要です。
依頼先の国によって雇用に関する法律が異なり、法律に基づいた契約内容を検討することが求められます。
契約書の作成と法的合意はある程度、専門知識を持ったもののサポートが不可欠であるため、あらかじめブリッジエンジニアか、民間企業へ委託し確認してもらうことをおすすめします。
Step7:プロジェクト管理と進行
オフショア開発におけるプロジェクト管理と進行で注意すべき点は、主に以下の3つの要素に集約されます。
- コミュニケーションの透明性と頻度
- 品質管理
- スケジュール管理
異なる国同士のプロジェクトでは、物理的な距離や文化の違いから誤解が生じやすいため、定期的なミーティングや進捗報告を通じて情報を共有してください。そして問題が発生した際には迅速に対応できる体制を整える必要があります。
品質管理では、開発チームの技術力を事前に評価し、定期的なコードレビューやテストを実施することで納品物の品質を確保する必要があります。また要件や期待する品質基準を明確に伝えることが重要です。
そしてスケジュール管理では、プロジェクトの進捗をリアルタイムで把握し、タスクの優先順位を設定するとよいでしょう。プロジェクト管理ツールを活用して進捗状況を可視化すれば、遅延を防ぎやすくなります。また、時差を考慮したコミュニケーション体制が必要です。
Step8:フィードバックと改善
物理的な距離や文化的な違いを考慮しつつ、フィードバックと改善を続けます。プロジェクトの進捗や問題点を迅速に共有し、誤解を防ぐのが目的です。特に、時差があったり言語の壁があったりする場合、情報の伝達方法を工夫し、理解を深める努力が求められるでしょう。
委託先の企業は、日本とは異なる文化を持つため、フィードバックの受け取り方や改善へのアプローチが異なることがあります。日本のように暗黙の了解や間接的な表現は通用しないことが多いため注意が必要です。
相手の文化を尊重し、柔軟な姿勢で接することが求められます。また、フィードバックは具体的かつ建設的であるべきで、単なる批判ではなく成長の機会として捉えられるよう配慮する必要があります。
そして改善策を実行する際には、その効果を測定し、必要に応じて再評価する機会を設けることで、継続的な改善が可能になります。Step1~8を繰り返すことで、オフショア開発の成功に向けた基盤や実績が築けるでしょう。
オフショア開発を進めて他社と差をつける
日本におけるエンジニアのリソース不足は深刻で、今後もますます加速することが予想できます。そこで「オフショア開発」を進めて人件費が安く優秀なエンジニアが多い海外企業へ委託することで、リソース不測の解消を図る手段が有効です。
ただし海外企業に委託する際は綿密な要件定義とコミュニケーションが成功のカギとなる。日本人同士の暗黙の了解やビジネスマナーおよび文化などは通用しない点に注意が必要です。